杏雲堂病院創立記念日講演会・第11回がん講演会が開かれました
 
杏雲堂病院は、明治15年(1882) 6月1日に開院以来、おかげさまで今年、133周年を迎えることが出来ました。
本年も6月4日(木)午後5時から、恒例の杏雲堂病院創立記念日講演会・がん講演会が、御茶の水の佐々木記念ホールで開かれ、院内外から140名ほどの方々に参集して頂きました。
冒頭、黒川雄二公益財団法人佐々木研究所理事長から、今年は特に学校法人順天堂と公益財団法人佐々木研究所の間の連携体制において、研究連携がいよいよ活性化することとなったので、それに因んで佐々木研究所、発がん研究、がん治療をキーワードにした講演会を開催することにしたとの挨拶がありました。
その後、3人の先生からご講演がありました。演題と要旨は下記の通りです。
「杏雲堂と肝臓 - 過去、現在、そして未来へ -」
杏雲堂病院消化器肝臓内科科長 小尾俊太郎先生
要旨;過去 1935年佐々木隆興先生と吉田富三先生がアゾ色素によってラットに人工肝癌を発生させることに成功 (Virchow’s Arch 1935) し、1936年帝国学士院恩賜賞を受賞した。現在 それから68年が経過した1998年当科が進行肝細胞癌の治療開発を目標に開設された。治療に難渋する門脈腫瘍浸潤を伴う進行肝細胞癌に対する動注化学療法の有効性と安全性を確立 (Obi S et al. Cancer 2006) し、トップクラスの進行肝癌治療センターとなった。未来 本邦で猛威を振るったウイルス肝炎は、chain terminator の出現によって終焉を迎える。かわってメタボ肝癌が増加するであろう。肝がんとの闘いは続く。


「固形がんの個別化医療の進歩」
順天堂大学腫瘍内科教授 加藤俊介先生
要旨;超高齢社会を迎えてがん患者が急増するわが国においては、個別化医療に基づく新規がん治療法の開発推進は喫緊の課題である。1980年代以降、がん分子生物学は急速な進歩を遂げ、2000年以降、数多くの分子標的薬剤が開発されてきている。また、ハイスループット(高速化合物評価系)遺伝子解析技術の進歩により固形がんのサブタイプ分類は促進され、個々のタイプに応じた治療戦略が可能となりつつある。この講演では、これまでに開発されてきた分子標的薬剤の紹介とともに、多様化してきた固形がん治療について紹介する。


「佐々木隆興先生のお仕事とKlein aber Mein精神」
佐々木研究所所長 関谷剛男先生 
要旨;1800年代中頃にRudorf Virchowが唱えたがん成生を説明する刺激説に疑いを持ち、1867年、Heinrich Waldeyerは、臓器がんの起源がその上皮細胞の増殖であることを提唱し、腫瘍病理学を築いた。50年後の1915年、山極勝三郎は、コールタール塗擦でウサギの耳に皮膚がんを作り、Waldeyerが人体で観察したことを実験的に証明した。1934年、佐々木隆興と吉田富三は、o-Amidoazotoluolの経口投与によるラット肝臓がん生成を発見し、初めて内臓がんの人工的作成に成功した。さらに、Waldeyerから100年後の1967年、杉村隆は、MNNG(ニトロソグアニジン)の経口投与でラット胃がんの作成に成功し、日本の発がん研究の伝統を世界に知らしめた。Waldeyerから150年の現在、がん研究は新たな方向を模索している。佐々木隆興の仕事と研究に対する考え方は、これからの研究に対する示唆に富む。