○酒より肝炎ウイルスが原因
日本人男性のガンによる死亡者数の第3位が「肝臓ガン」だ。また、死亡率の急増ぶりは肺ガンに次ぐ勢いで、2003年は男性肝臓ガン患者2万3000人以上が亡くなっている。これは、女性の2倍以上の数字に上る。
ここで頭に叩き込んでほしいのは、肝臓ガンの要因として最たるものは「アルコール」ではないということ。肝炎ウイルスに感染しているかどうか。ここに、多くの男性の”落とし穴”がある。
杏雲堂病院肝臓科の小尾俊太郎部長が言う。
「肝臓ガンには他臓器から転移した転移性肝ガンと、肝臓が原発の原発性肝ガンがあります。原発性肝ガンの約90%はC型肝炎かB型肝炎で、特にC型肝炎は肝臓ガン全体の80%を占めます。
感染すると、30〜45年かけて慢性肝炎、肝硬変、肝臓ガンヘと進展していく。だから、肝臓ガン対策で重要なのは、C型肝炎ウイルスの感染の有無をチェックし、肝臓ガンヘの進展をいかに抑えるか。
こういったことが明らかになってきたのは近年のことで、一般の方への浸透はまだまだです。進行を示す肝機能数値GPTが上昇していても『アルコールが原因だろう』と考えて、精密検査を受けない方も多い。気がついたときはすでに手遅れの肝臓ガン、ということも珍しくない」
C型肝炎ウイルスは血液を介して感染する。輸血、注射針の使い回し、入れ墨、ハリ治療などが原因だ。「今は注射針の使い回しはありませんが、数十年前
までは行われているところもありました。だから、感染の可能性がある40歳前後以上の方、過去に輸血を受けたことがある方などで肝機能数値が高い方は、念のために肝炎ウイルスの感染を調べるべきです。
そして、もし感染していたら肝硬変、肝臓ガンヘの進展を抑えること。これが肝臓ガン対策で、まず重要なことです」(前出・小尾部長)
もし肝炎ウイルスに感染していたら−−。肝硬変、肝臓ガンヘの進展を抑える治療が行われる。
@インターフェロン治療、
A瀉血療法、
Bグリチルリチン製剤の注射、あるいは、ウルソデオキシコール酸の服用だ。
「肝臓に備蓄される鉄の量が多いと、肝硬変、肝臓ガンヘ進展しやすい。瀉血療法は、鉄分の摂取を抑え、同時に血液を抜いて体内の鉄分量を減らす方法です。これによって半年ほどで肝炎が改善されることが実証され、今年4月から保険適用になりまし
た。副作用は貧血ぐらいで、来院回数も月1回ほど。@やBに比べて患者さんの負担も少ない」(小尾部長)
ちなみに、「肝臓にいい」と一般的に言われるシジミなどの貝類や、レバー、サプリメントのウコンは鉄分が多い。ほかには、納豆などの大豆製品、赤身肉、青背の魚、海藻類、小松菜、枝豆など。いずれも摂取には注意が必要だ。
○しぶとく「再発」を繰り返す
肝臓ガンヘの進展を防ぐ「予防法」をあげてきたが、不幸にして肝臓ガンを発症してしまったらどうなるのか。
「まず、肝臓の一部とともにガンを切り取る肝切除手術です。肝機能の状態がよい患者が対象になりますが、生存率は最も高い。そのほか、ラジオ波で加熱してガンを凝固壊死させるラジオ波焼灼法、ガンにエタノールを注入して壊死させるエタノール注入法、肝動脈の血流を遮断してガンを殺す肝動脈塞栓術などがあります」(東京大学医学部附属病院 肝・胆・豚外科の幕内雅敏教授)
幕内教授が開発した、肝臓の構造に沿って肝切除する「幕内術」は、出血量が少なく安全性も高い。
しかし、肝臓ガンがやっかいなのは、再発を何度も繰り返すガンだということ。1年で約20%、5年で80%以上の患者が再発、しだいに、どの治療法も効き目が低下していき、最終的には打つ手がなくなってしまう。
そういった人に対し、劇的な治療効果をもたらしているのが’インターフェロン併用5−FU動注化学療法’だ。05年の日本肝癌研究会で発表され、大反響を呼んだという。これまで270人にこの療法を行った前出・小尾部長が言う。
「インターフェロンと、抗ガン剤5−FUの2つを投与するのですが、”効く人”には投与2週間で劇的な変化が見られます。270人中52%の患者のガンが縮小、あるいは完全に消失しました。完全消失の人は15%です」
65歳のAさんはC型慢性肝炎から肝臓ガンを発症、98年に手術で完全切除したが、その後、再発を繰り返した。肝動脈塞栓術で治療するものの02年には効かなくなり、「治療の方法がない。余命3〜6ヵ月」と宣告された。最後の望みで杏雲堂病院に転院し、インターフェロン併用5−FU動注化学療法を受けた。すると最初の1クール(4週間)で腫瘍の縮小がハッキリ見られ、3クール目が終わったころにはガンがすべて消失していた。4年たった今も元気に生活しているという。
再発に苦しむ肝臓ガン患者にとって希望が持てる治療法と言えるだろう。
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