一人で闘わないで

家族性大腸腺腫症の患者会「ハーモニーライフ」の紹介

がんを治す 完全ガイド11月号

岩間毅夫 杏雲堂病院 副院長・外科部長
〒101-0062東京都千代田区神田駿河台1-8
TEL 03-3292-2051


「がん」などという病に侵されれば、いくら精神力に長けている人でも、心細い日々を送ることもあろう。それでも、多くのがん患者は、家族や医療関係者などの支えのもと、病と向き合っていく。しかし、がん患者には、もう一つ大きな杖となり得るものがある。そ
れは「がん患者会」や「患者のための基金」だ。
がんを克服した人、がんと共存しながら前向きに生きている人、がんのことを語り合える人…:。「患者会」や「基金」を通して出会うのは、肩書きや経歴を超えた「私も同じ病だ/独りで闘わないで共に歩んで行こう」という、同胞たちである。人はそれほど強く
ない。ならば、たくさんの支えを持てばいいのだ。
自分に合った「患者会」などを探して、闘病への「情報」はもちろん、「勇気」を得ていただきたい。そのような一念から、本シリーズでは全国の「がん患者会」や「患者のための基金」の設立からの歩みを紹介していきたい。

まれな遺伝性疾患
東京都千代田区の佐々木研究所附属杏雲堂病院内に事務局がある家族性大腸腺腫症の患者会「ハーモニー・ライフ」は、1998年7月に設立された。
 この家族性大腸腺腫症という疾病は、大腸に良性の腫瘍である腺腫(小さなポリープ)が多発する疾患である。そして、大腸がんも発生させやすい病気だとも言われており、遺伝する可能性があるので、患者は若いころからがんの発生に注意を払ったり、大腸の手術を受けたりすることがある。したがって、生涯にわたって医療と関わり続けることになる。それに、まれな疾患であることから情報が乏しく、患者は孤立する。そして、病に対する恐怖心だけが先行してしまい、的確な医療を受けるチャンスを逃してしまうことが少なくない。加えて、生涯にわたり、定期的に検査を受けなければならないことは、精神的にも肉体的にも、そして経済的にも困難を強いられる。
 また、この病気は遺伝性という大きな特徴があることから、世間からの理解が不足したり、周囲から誤解を受けたりすることがある。
逆に、正しい知識を世の中に広め、患者ががんを発生させる前に医療的な支援を受けることで、普通の人と同様の生活を送ることが可能になってくる。
 このような状況と向き合っていた杏雲堂病院の副院長・岩間毅夫さんは考えていた。医師が説明や検査、治療をする努力だけでは、家族性大腸腺腫症の患者の生涯にわたる治療はうまくいかない。医師だけではなく、患者をサポートするコーディネーターやカウンセラーといった人たちのサポートが必要なものになってくる、と。そこで岩間さんは、そのような人材の育成に携わってきた。しかしながら、それはあくまでも医師やカウンセラー、コーディネーターら医療従事者側からの支援にすぎなかった。
 岩間さんは、以前より医療の主体は患者ないし、その家族であると考えていた。しかし、その考えは、なかなか家族性大腸腺腫症患者のための患者会という形に進展しなかった。
 そんなころ、岩間さんの恩師にあたる関西の大学病院の名誉教授が、家族性大腸腺腫症患者の患者会を立ち上げる援助をした。時を移さず、岩間さんは、関東でもこの病の患者会を設立することにした。そこで、外来の患者・入院している患者、看護師の有志とともに患者会を立ち上げた。会のネーミグは「ハーモニー・ライフ」とした。

正しい知識を持ち、めげず恐れず生活しよう
「ハーモニー・ライフ」について、杏雲堂病院の副院長であり、事務局を運営する岩間毅夫さんに訊いた。

「ハーモニー・ライフ」を立ち上げた背景にある、医師としての岩間さんのお考えは?
「家族性大腸腺腫症は遺伝性の疾患です。だから、がんのように治るか否かだけでは決着がつきません。そのときに手術しても、また新しいがんが発生する可能性があります。一つのがんを抱えても大変なのに、他の部位にもがんが出る可能性を心配しなければならないのは、患者さんにとっては非常に大変なことです。それを支えるのがカウンセラーだとか、コーディネーターだとかいう人たちです。
でも、医療者側の努力だけではダメです。やはり、この病気は大腸がんや胃がんとは違って珍しい病気なので、情報も少なく患者さんが孤立しがちで恐怖感ばかりが先に立つようなことがよくあります。
ですから、患者さん同士が情報を交換し合ったり助け合ったりすることで、この病気と闘っているのは自分だけではないという気持を持ってほしかったんです。それが会をつくった大きな要因です」

どのようにしてメンバーを集めていったのですか?

「家族性大腸腺腫症の患者さんというのは、病気の性質上、おおっぴらに『私はこういう病気に罹っています』となかなか言えないものです。でも、私ですと、立場上、いろいろな患者さんを知っていました。そこで、『家族性大腸腺腫症の患者会をつくろうと思うのですが、どうでしょうか?』と、患者さん一人一人にお声をかけていったんです。すると、『そういう会があったらいいですね』という方もいらっしゃいましたし、『そんな会は要りません』という方ももちろんいらっしゃいました。そこで、『会があったらいいですね』という人同士で集まりました。当初は、患者さんは5〜6名でした」

「ハーモニー・ライフ」の活動の機軸となる考えは?
「この会は、家族性大腸腺腫症や類縁疾患と闘う患者および患者家族、支援者からなる自助組織です。互いの親睦、情報交換、情報提供、この疾患に理解を得るための杜会への働きかけが主な目的です」

社会への働きかけと言いますと?
「医療経済的支援を得るために議員さん方、厚生労働省などへの陳情をしています。家族性大腸腺腫症の患者さんたちは、ほとんど何の援助も受けられず、保険でまかなっているだけです。しかし、この病気の患者さんは定期的に診療を受けなければならないし、若いうちから大腸がんにもなりやすいので医療を受ける機会も多いんです。当然、勤めていれば通院や入院を繰り返して、解雇されてしまうこともあったりします。親が病気ですと、子供の就学にも影響します。ですから、保険だけでは大変ですので、何とかならないかと陳情に行くわけです」

会のネーミングの由来は、どのようなものでしょうか?
「私の恩師が関西で立ち上げた家族性大腸腺腫症の患者会が〈ハーモニー・ライン〉という名前でした。私たちの会の初会合のときには、会の名称について、かなり議論がありました。その場に〈ハーモニー・ライン〉の会長もいらしていて、将来、関西と連合なり統一する場合に備えて、〈ハーモニー〉の名前をいただくことにしま
した。そのことは、大変よかったのですが、〈ハーモニー・ライフ〉を英語に訳して世界に紹介するときに、意味不明にならないか少し心配しています」

どのような方法で会を運営しているのですか?
「会員一人一人から年会費2000円を徴収しています。そのお金で、講演会や屋外親睦会、ニュースレターの発行、陳情活動、その他必要な活動を行っています」

現在の会員数は?
「(2005年9月現在)88人です。毎年、少しずつですが、講演会を聞きに来た人や、ニュースレターあるいはホームページを見た人からの入会者があります」

メンバーには、どのような人たちがいらっしゃるのですか?
「家族性大腸腺腫症患者、類縁疾患患者、患者家族、医師、看護師、その他の支援者です」

会を設立して、よかったことは?
「患者さんが孤立感や情報不足から解放され、精神的にゆとりができ、互いに支え合うようになったことです。それと、会がここまで成長したことですね」

では、逆に辛かったことは?
「特にないのですが、強いて挙げるとすれば、設立当初は会の存亡が心配でした。まれな疾患であるため会員は少数です。メンバー自身が病人ですから、診療を受けるだけでも大変なので会の行事に出席する余裕も少ないです。それでも、皆さん、少しずつ時間を割いて会の活動に携わってくれています」

これから会で取り組んでみたいことは?
「家族性大腸腺腫症やその類縁疾患を持つ患者さんのうち、ごく一部の方が会員となっていますが、入会するか否かは別にして、この会の存在を広く知ってもらえるように努力していきたいですね。
あとは先ほど申し上げましたように、患者さんが医療経済的支援を得られるように努力を続けていきます。
 それと、会の経済的基盤を強化していくことです。今は年会費が2000円ですが、患者さんにとっては大変です。そこで、会への寄付などがあれば…、とも思います。しかし、この病気を知っている人は少ないし、患者さん自身も隠しておきたい病気ですから、街頭に立って寄付を呼びかけるわけにもいきません。ですから、今は患者さん自らが自分のことをやらなければなりません。
 4つ目は、患者さん、その家族のニーズに沿った活動にするための調査活動を行うことです。というのは、患者さんがどういうことで困っているのかを把握しておかないで、きっとこんなことに困っているだろうと思っていても、実際は困っていないかもしれない。
それでは、会の活動が自己満足になってしまいます。ですから、調査活動というと大げさなのかもしれませんが、孤立感や不安感を取り除くことのほかに、患者さんのニーズを知っておこうと思っています」

岩間さんにとっての「ハーモニー・ライフ」とは、どのような存在ですか?
「患者さんが普通の生活をするためのお手伝いをさせてもらっているところです。メンバーが頑張っているので、私も頑張らないといけません。私は事務局をやっているだけで、他にニュースレターを編集したり発行したりしている広報の方たちがおられます」

最後に、がんと闘っている方にメッセージがあれぱ-…。
「この会は、がん患者さんの会とは多少性質は異なります。でも、現実に病気と闘っていることには変わりありません。ですから、皆さんと一緒に、療養や医薬開発など、いろいろな状況をよくしていきたいと思っています。一緒に頑張りましよう。
 家族性大腸腺腫症の患者さんには、このような会があることを知ってもらいたいです。ホームベージや、そのなかのニュースレターに一度、目を通してください。正しい知識を持って、めげず恐れず生活しましよう」

*問い合わせ先
【ハーモニー・フイフ】
●〒101-0062
東京都千代田区神田駿河台1-8-12
佐々木研究所附属杏雲堂病院
(岩間毅夫)
TEL03(3292)2051
FAX03(3292)3376