自己チェックでわかる
からだ危険信号


東京スポーツ 2003年9月5日〜10日
東京スポーツ新聞社

取材先 渡部一弘 
佐々木研究所附属杏雲堂病院 副院長

TEL 03-3292-2051 FAX 3292-3376
〒101-0062
東京都千代田区神田駿河台1-8
 (9月5日) 腹痛@
急激な腹痛は重い病気の可能性が

 腹痛は誰でも経験する症状の一つ。自然に治る、あまり心配いらない腹痛から、救急治療の必要な、危険な腹痛まである。
 消化器疾患の専門医、佐々木研究所付属杏雲堂病院(東京都千代田区)の渡部一弘・副院長がいう。
「腹痛は消化器疾患では最も一般的な自覚症状ですが、尿路結石などの泌尿器疾患や子宮付属器炎などの婦人科系疾患、ときに肺や心臓病の病気など消化器疾患以外で起こることもあります。痛みが腹腔内のどの臓器から発しているのか、その臓器にどんな異常が生じているか、痛みの部位、痛み方、程度、持続時間、排便、食事との関係、その他の症状などから推測することができます。」
 原因の病気はみぞおちが痛いのか、わき腹が痛いのか、下腹部が痛いのか、刺すような痛みか、鈍い痛みか、けいれんするような激しい痛みか、その痛みは持続的なのか、繰り返しおこるのか、食事の後におこったのか、空腹時におこったのか・・・によって異なり、他にどんな症状(吐き気・おう吐・下痢・便秘・発熱など)を伴うかによっても異なる。
 自己チェック表は急におこる腹痛(急性腹症)の症状。考えられる病気をあげてみよう。
●項目1 腸閉塞。腸管が何らかの原因でつまり、通過障害をおこす病気で、突
 然発症し、ショックをおこして危険な状態に陥り、緊急手術が必要になることも。
●項目2 狭心症・心筋梗塞。みぞおち周辺の痛みで発症することも。
●項目3 胆石症・胆のう炎・胆管炎。脂肪の多い食事の後に発症することが多
 い。胆石症、胆管炎では黄疸もみられる。
●項目4 食中毒。下痢は水様便、ときに血便も。発熱、けいれんなどを伴うこと
 も。
●項目5 急性膵炎(膵臓痛と呼ばれる上腹部の激構が特徴。膵臓に含まれる
 消化酵素により膵臓自体が破壊されて発症する。
●項目6 急性腹膜炎。痛みは次第に強くなる。腹を手で押し、離すと反射的に
 強く痛む。
●項目7 尿管結石。尿管に結石が詰まる病気で、七転八倒するほどの激痛が
 続く。
●項目8 急性虫垂炎。痛みが移動するにつれて痛みの範囲が狭くなり、そこを
 押すと痛みが強くなる。「急激な腹痛は急を要する重い病気が疑われます。急
 いで消化器科を受信してください」(渡部副院長)
<特別取材班>

<自己チェック表>
急に激しい腹痛、吐き気・おう吐がおこり、腹が張り、便もガスも出ない。 YES NO
みぞおちあたりが締めつけられるように痛む。 YES NO
食後2〜3時間して右上腹部に激しい痛みがおこり、肩、背中、に抜ける YES NO
食事の後、急に上腹部から下腹部にかけて痛み、吐き気、」おう吐、下痢を伴う YES NO
脂っこい食事の後、あるいは飲酒の後、左上腹部が激しく痛み背中も痛む。吐き気・おう吐・発熱を伴う。 YES NO
我慢できないほどの激しい腹痛がおこり吐き気・おう吐、腹部膨満感を伴う。 YES NO
腰からわき腹にかけて刺すように痛み、尿が赤くなる。 YES NO
痛みがみぞおちから右下腹部に移動し、吐き気・おう吐、発熱を伴う。 YES NO


 (9月6日) 腹痛A
早めに消化器科を受信するのが大切

 自己チェック表は慢性的な腹痛の症状。軽い痛みや鈍い痛み、しばらくしておさまる痛みもあるが、軽い病気と限らないし、進行して癌化する病気もある。YESがある場合、早めに原因の病気を明らかにし、適切な治療を受ける必要がある。
 消化器疾患の専門医、佐々木研究所付属杏雲堂病院(東京都千代田区)の渡部一弘・副院長がいう。
「腹腔内にはいろいろな臓器があり、腹痛のほとんどはその内臓の病気が原因でおこります。腹部の痛みを感じる部位から、腹腔内の痛みを発している内臓を推測することができます」
 腹部を中央部、右上腹部、左上腹部、右下腹部、左下腹部に分けた場合、次のような内臓の病気が考えられる。
●中央部 横隔膜、胃、十二指腸、膵臓、小腸、膀胱、子宮
●右上腹部 胆のう、肝臓、横隔膜、十二指腸、結腸
●左上腹部 横隔膜、胃、膵臓、脾臓、結腸、腎臓
●右下腹部 虫垂、盲腸、小腸、卵巣
●左下腹部 S字結腸、小腸、卵巣
 さらに痛みのおこり方、程度、痛み以外の症状などを合わせると、疑わしい病気を絞り込むことができる。自己チェック表の項目ごとに疑わしい病気をあげると、項目1は腎孟腎炎、項目2は虫垂炎、項目3は肝障害や胆のう炎、項目4は慢性腸炎、クローン病、腸管機能異常など、項目5は胃潰瘍、十二指腸潰瘍、項目6は慢性胃炎、項目7は胃潰瘍、項目8は腎臓の病気、項目9は膀胱炎などである。
 慢性的な腹痛を伴う病気はほかに数多くある。例えば、下腹部痛は単なる便秘でもおこるし、過敏性腸症候群、大腸がん、潰瘍性大腸炎、腸憩室などの腸の病気でも、膀胱・尿路の病気でもおこり、女性は子宮内膜症や卵巣疾患などの婦人科の病気でもおこる。「自覚症状だけで病気を診断するのは不確実ですから、検査によって正しく診断する必要があります。例えば、上腹部痛などの症状から胃・十二指腸潰瘍が疑われる場合は胃X線検査、胃内視鏡検査、胆石症が疑われる場合は腹部超音波検査、急性膵炎が疑われる場合は血清アミラーゼ検査(血液検査)などを行って診断します」(渡部副院長)。
 痛みが軽くても、しばらくしておさまっても、痛みがはからだが発するSOSであり、早めに消化器科を受信することが大切である。<特別取材班>

<自己チェック表>
わき腹が痛み、熱が出て、尿が白く濁る。 YES NO
右下腹部が痛み、熱が出て、吐き気を伴う。 YES NO
上腹部に鈍い痛み(重苦しい感じ)があり、全身がだるく、疲れやすい。 YES NO
下腹部にかけて痛み、発熱があり、下痢や便秘を繰り返す。 YES NO
空腹時、みぞおちあたりが痛む。 YES NO
みぞおちあたりが重く、押されるような感じがあり、胃もたれがする。 YES NO
食後、上腹部がシクシク痛む。 YES NO
わき腹が痛み、腰に不快感がある。 YES NO
下腹部が痛み、排尿回数が増えた。 YES NO


 (9月7日) 胃の運動障害
少量で満腹になる人は要注意

自己チェック表は胃の運動障害の症状で、日本では成人の4人に1人がこのような症状に悩まされているという。YESがある場合、消化器科を受珍しよう。
 消化器疾患の専門医、佐々木研究所付属杏雲堂病院(東京都千代田区)の渡部一弘・副院長がいう。「食物が胃に入ると、胃は胃液を分泌し、収縮と弛緩を繰り返すぜん動運動をして食物と胃液を混ぜて撹拌し、粥状にして腸に送り出します。この胃の運動が十分に行われないと、食物が胃に長く滞留し、腸に送り出されるのが遅くなり、そのため胃がもたれたり、ムカムカしたり、不快な症状に悩まされることになります」
 胃のぜん動運動は冒中部に始まり、幽門(出口)に向かって、初めは浅く、幽門に近づくほど深くなる。ふつう1分に3〜4回おこり、1.5〜3時間かけて食物を粥状にする。その後ぜん動が強まり、胃の内圧が高まり、収縮していた幽門が緩み、食物を十二指腸に送り出す。この胃の運動が鈍くなると、食物が長く胃にとどまり、自己チェック表の項目1〜5のような症状が現れる。 さらに、胃の食物が食道に逆流していると、項目6〜7のような症状が現れる。
 胃の運動障害の原因として@生活の乱れA過労B寝不足C不規則な食事Dアルコールやコーヒーの飲みすぎE胃の手術歴…が挙げられる。
「胃のぜん動運動は副感神経の刺激で高進し、交感神経の刺激で抑制されます。
ストレスが高じると交感神経が優位になるので、胃のぜん動運動は抑制されるのです。生活の乱れ、過労、寝不足などはストレス過多の原因になります」 (渡部副院長)。
 不規則な食事やアルコールやコーヒーによる刺激は胃の動きを狂わせる。胃の手術後は胃の動きも悪くなりやすい。
 まず、次のような生活改善を心がけよう。
●食生活 規則正しく食事をとる。刺激の強いもの、脂っこいもの、甘いものを控える。
●嗜好品 禁煙する。アルコールを控える。
●ストレス 睡眠を十分にとる。ゆっくり入浴し、からだを休める。休日は趣味を楽しむ。
 それでも症状が続くときは消化器科を受珍しよう。胃の内容物が滞留している場合は胃の運動を促進する薬、胃の内容物が食道に逆流している場合は胃酸を抑える薬が有効。ただし、薬を服用しても改善しない人、胃がんや胃潰瘍にかかったことのある人、体重が大きく減少した人、便に血液が混じっている人などは精密検査が必要である。<特別取材班>

<自己チェック表>
胃がムカムカしたり、吐き気が起こったり、吐いたりする。 YES NO
胃のあたりが膨れている感じ(腹部膨満感)がある。 YES NO
胃もたれ感がある。 YES NO
食欲がない。 YES NO
少し食べただけで、すぐ満腹になってしまう。 YES NO
胸やけがする。 YES NO
すっぱいものがこみ上げてくる。 YES NO
わき腹が痛み、腰に不快感がある。 YES NO
ストレスがたまると、上記(1〜7)の症状が強くなる。 YES NO


 (9月9日) 胃・十二指腸潰瘍@
食事で和らぐ痛みは十二指腸潰瘍疑え

 自己チェック表は胃・十二指腸潰瘍の主な症状。YESがあり、その症状が繰り返しおこる場合、長く続いている場合は、胃潰瘍あるいは十二指腸潰瘍の可能性があるので、消化器科を受診しよう。
 消化器疾患の専門医、佐々木研究所付属杏雲堂病院(東京都千代田区)の渡部一弘・副院長がいう。「胃粘膜から分泌される非常に強い酸で、殺菌力のある胃酸や消化酵素によって胃や十二指腸の粘膜が傷つけられて生じるのが消化性潰瘍で、別名を胃・十二指腸潰瘍ともいいます。胃あるいは十二指腸に潰瘍が生じると、多くの場合、食後や空腹時にみぞおちの痛み(心窩部痛)がおこるようになります」
 食後1時間以内に生じる痛み(早期疼痛)は胃潰瘍に多く見られる症状で、痛みの程度は軽く、無症状のこともある(項目1,2,3)。
 空腹時、食事の前や夜間に生じる痛みは十二指腸潰瘍に多く見られる症状で、痛みの程度が激しく、30分以上続くこともある。十二指腸潰瘍の場合、食事をとると痛みが和らぎ、おさまるのが特徴である(項目2,4,5)
 おう吐は食後1〜4時間でおこり、多くは吐き気、腹部膨満感を伴う(項目6)。潰瘍から出血していると、その血が吐物に混じったり、便に混じったりする(項目7,8)。血液は胃酸にさらされると黒っぽくなり、胃液や食物などに混じるとコーヒーの残りカスのようになる。下血の場合、少量(50ml程度)の出血でも黒色便、タール便(コールタールみたいな真っ黒い下痢便)となる。
「少量の出血でも、長く続くと貧血となって顔色が悪くなり、息切れ・動悸、ふらつきなどがみられることもあります。大量に出血すると、脈拍が増加し、血圧が下がり、意識を失ったりすることがあります」 (渡部副院長)。
 潰瘍が徐々に深くなり、胃壁あるいは十二指腸壁に穴があいてしまうこと(胃・十二指腸穿孔)がある。穿孔をおこすと胃・十二指腸の内容物(胃液、腸液、胆汁、食物など)が腹腔内にもれて腹膜炎をおこし、激しい痛みが上腹部から腹全体、右肩や背中に広がり、顔面は蒼白となって苦痛にゆがみ、脈拍は弱くなり、危険な状能に陥る。救急治療が必要となる。
 「潰瘍が治ると瘢痕(ひきつれ)ができ、その瘢痕によって胃や十二指腸の内径が狭くなり、通過障害をおこすと、強い腹部膨満感がおこり、吐くと楽になります。しかし、悪化すると食物がまったく通過しなくなり、食事がとれなくなります」 (渡部副院長)。
<特別取材班>

<自己チェック表>
胃のあたりがいつも重苦しい。 YES NO
ときどき腹痛(みぞおちの痛み)がおこる。 YES NO
腹痛は食後1時間以内におこる。 YES NO
腹痛は空腹時、食事の前や夜間におこる。 YES NO
腹痛は食事をとると軽くなる、おさまる。 YES NO
食後、吐き気や腹部膨ラ簡感がおこり、ことがある YES NO
吐物に皿が交じることもある。 YES NO
便の色が黒っぽい。 YES NO
上腹部を手で軽く圧迫すると痛む。 YES NO


 (9月10日) 胃・十二指腸潰瘍A
タバコ、酒、ストレスは大敵

 自己チェック表は胃・十二指腸潰瘍の主な危険因子(項目1〜2は胃酸過多の症状)。YESがある場合、胃・十二指腸潰瘍になりやすい(治りにくい、再発しやすい)。
 消化器疾患の専門医、佐々木研究所付属杏雲堂病院(東京都千代田区)の渡部一弘・副院長がいう。「胃は胃液(胃酸とタンパク質分解酵素)を分泌し、食物を消化します。胃や十二指腸の粘膜は胃液によって消化されないよう保護されています。胃液の分泌が過多になったり、粘膜の保護が低下したりすると、胃液によって粘膜が消化されて潰瘍を生じます。その原因(危険因子)は食生活から肉体的・精神的ストレス、ヘリコバクター・ピロリ菌まで数多くあります」
 胃潰瘍、十二指腸潰瘍は粘膜を傷つける攻撃因子と守る防御因子のバランスが崩れたときに発生すると考えられている。攻撃因子は胃液(胃酸、ペプシン)、防御因子は粘液、フロスタグランデイン(生理活性物質)、粘膜の皿流などで、そのバランスを崩す要因にアルコール、タバコ、飲食物、薬剤、ピロリ菌、ストレスなどがある。胃酸過多(項目1、2)は攻撃因子を強くする。喫煙、過度の飲酒(項目3、4)は胃粘膜の皿流を悪くし、防御因子を弱くする。アルコールは胃粘膜を傷害する。刺激の強い飲食物、嗜好品(項目5)は胃酸の分泌を促し、攻撃因子を強くする。不規則な食事、肉体的・精神的ストレス、薬剤(項目6〜9)は防御因子を弱くする。「胃・十二指腸潰瘍と喫煙には深い関係があり、喫煙者は発症率も再発率も高くなっています。喫煙は胃粘膜、十二指腸粘膜の皿流を減らし、胃液の分泌を高め、胃の出口の機能を悪くし、胆汁の逆流によって潰瘍をつくる原因になると考えられています」(渡部副院長)。
 また、ピロリ菌は尿素を分解し、粘膜を傷害するアンモニアをつくり、潰瘍の発生に深く関係しているといわれている。
 「現在、胃酸の分泌を強力に抑制する薬や胃・十二指腸粘膜を保護する薬が開発されており、潰瘍は非常に早く治るようになっています。そして、再発を防くために喫煙、節酒、ストレス解消、食生活の改善などを心掛けることが大切です」 (渡部副院長)。
 食事は@牛乳、卵、豆腐などのタンパク質を積極的にとるA香辛料、炭酸飲料などの刺激物、塩分のとりすぎを避けるB油ものを控えるC食事時間を規則正しくするDゆっくりよくかんで食べる…などを心がけるようにしましょう。
<特別取材班>

<自己チェック表>
ゲップがよく出る。 YES NO
すっぱい液がこみあげてくる。 YES NO
タバコを吸う。 YES NO
酒を大量に飲む。 YES NO
刺激性の嗜好品(にんにく、コーヒー、香辛料など)をよくとる。 YES NO
食事時間が不規則である。 YES NO
仕事、家庭、人間関係などの悩み(精神的ストレス)がある。 YES NO
過労、外傷、熱傷など(肉体的ストレス)がある。 YES NO
薬(鎮痛剤、ステロイド剤、抗生物質など)を長期にわたって服用している。 YES NO