◆「5―FU」と「インターフェロン」
大阪府の男性会社員Hさん(46)は、「C型肝炎」と言われながら定期検査や治療を受けていなかった。
気付いた時には、肝臓の左半分を覆うほどの大きながんができていた。既に手術は不可能な状態。大阪大消化器外科教授の門田
(もんでん)守人さんに、抗がん剤治療を受けた。太ももの付け根からカテーテル(細い管)を入れ、肝臓に達したところで、
がん細胞に直接薬を注入する「動注抗がん剤療法」。数か月でがんは消え、元気に仕事をこなしている。
肝がんには、手術による切除や、がんをラジオ波の高熱で焼いたり、アルコールの注入で殺したりする方法などが効果を発揮する。
だが、抗がん剤はほとんど効果がなかった。がんが進行し、手術などが困難な場合に、カテーテルで薬を注入する
「動注抗がん剤療法」は、これまでも行われてきたが、完治は期待できなかった。
Hさんが受けた治療は、そうした「肝がんに抗がん剤は効きにくい」という従来の見方を覆すような新手法だ。
使用するのは「5―FU」(ファイブ・エフ・ユー)という抗がん剤。1960年代から、肺がんや大腸がんなどに広く使われてきた。
実は、この薬だけでは肝がんには効かない。ところが最近、C型肝炎治療薬「インターフェロン」の注射を併用すると、大きな効果が期待できることがわかったのだ。
治療は次のように進める。月曜から金曜日まで「5―FU」を少量ずつ24時間、カテーテルから病巣に注入。同時に週3回、インターフェロンの筋肉注射をする。
これを2週間繰り返すと、次の2週間は「5―FU」を休み、インターフェロンだけを注射。ここまでをワンセットとし、主に2回(8週間)繰り返す。
阪大では、手術できない進行がん患者40人に「5―FU」と「インターフェロン」の併用治療を行ったところ、19人(48%)のがんが消えたり、大幅に縮小したりした。
まだ十分な長期の治療成績は出ていないが、門田さんは「約5割の肝がんに効果が期待できる」と話す。
この2剤の組み合わせで効く理由は明らかではないが、門田さんは「インターフェロンが取りつきやすいタイプのがんに適しているようだ」とみている。
東大病院などでも同様の成果が出ている。東大の関連病院の杏雲堂病院(東京・千代田区)では、64人の進行肝がん患者に実施した結果、14人のがんが消え、20人は大幅に縮小した。
阪大ではさらに、進行したがんの場合、まず抗がん剤で縮小させたうえで手術したり、主要ながんを切除した後にこの治療を行った結果、11人中9人は経過が良好だという。
「治療の難しかったがんも、抗がん剤で縮小させ、残りを手術やラジオ波などで治療する二段構えの方法もできるようになった」と、東大消化器内科教授の小俣政男さんは話す。
ただ、肝がんにインターフェロンは保険が適用されていないので、自費治療(約40万円)になる。(染谷 一)
肝がんに対する「5−FU」と「インターフェロン」の併用療法に取り組んでいる
主な医療機関 |
東大病院(東京都文京区) |
(電)03・3815・5411 |
杏雲堂病院(東京都千代田区) |
(電)03・3292・2051 |
金沢大病院(金沢市) |
(電)076・265・2000 |
大阪大病院(大阪府吹田市) |
(電)06・6879・5111 |
市立池田病院(大阪府池田市) |
(電)072・751・2881 |
岡山大病院(岡山市) |
(電)086・223・7151 |
(2003年6月3日)
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