@腱鞘炎

Aテニスひじ

B野球ひじ

家庭の医学 (且ミ会保険出版社)

富田 善雅 整形外科医長
佐々木研究所附属杏雲堂病院
〒101-0062東京都千代田区神田駿河台1-8
TEL 03-3292-2051


【腱鞘炎】

◎解説◎
 腱鞘炎とは、指を動かすすじに起こり、特に指がかっくんかっくんとなるものをばね指といいます。
 一般的なばね指について述べると、指を曲げる運動は、屈筋腱と呼ばれるすじが手と指の中を通っていて最後は指の先端の骨についていて、前腕の筋肉がこのすじを引っぱって指を曲げます。このときこの指のすじは腱鞘と呼ばれるいくつかのトンネルの中を通過しながら指先へと向かいます。腱鞘炎とはこのすじとトンネル間で機械的な摩擦によって炎症が生じて痛みや動きの障害を起こすものです。ばね現象とはトンネルである腱鞘の狭くなったところとそれに伴うすじの一部が太くなって指の曲げ伸ばし運動を障害するようになったものをいいます。

◆症状◆
 最初、指のひっかかり感から始まり、しだいにばね現象を認めるようになります。症状が重くなると指の動きが止められて指が固まってしまったなどと外来を受診します。炎症が続く急性期は痛みを伴い、日常生活に不自由を強いることになります。
 よく起こる指は親指や中指・薬指です。指の付け根に最初のトンネルがあり、ここを押したときの痛みや指の曲げ伸ばしで痛みを生じます。
 幼児のばね指は、先天性で腱自体が大きくてすじの滑りを障害します。幼児は大部分が親指で、両方の親指が障害されることも多いです。

◆治療◆
 その原因が腱鞘と腱のあいだに起こる炎症であるため、まず局所の安静を行います。各種抗炎症薬の局所投与が有効な場合があります。大半の人が痛みを伴うばね現象を起こして固まってしまい、日常生活に不自由をきたすようになり医療機関を訪れます。局所へ副腎皮質ステロイ ド剤の注射を行いますが、頻回の注射はすじを弱めるので3回程度までとしています。
 幼児の場合、自然に治ることがあるので、通常は2〜3歳頃までは外来通院で様子をみることが多いです。しかし、まったく治癒傾向がなく固まったままの場合、親指が手のなかで非常に重要な役割を果たすことと、手の機能が3歳頃までに形成されることを考慮し、早期に手術に 踏み切るケースもあります。

◆手術◆
 原因となっている指の付け根の腱鞘(トンネル)の直上の皮膚を切開しこのトンネルを開放します。通常は局所麻酔下に外来で手術で行 われます。以前の皮膚の切開は、横に切開していましたが、最近は術後の手術創がほとんど目立たなくなることから、病変部直上の手のしわ(手掌皮線)に沿って縦や斜めの切開を用いています。術後は、直後から指の引っかかりが消失し、早くから指を動かし腱の再癒着を防止します。


【テニスひじ】

◎解説◎
 テニスひじは、ひじの外側の痛みを訴える一種の一般用語ですが、医学的には上腕骨外上顆炎とほぼ同義語です。テニスひじの由来は、1882年にモリスの”Lawn tennis arm”という論文に端を発しますが、必ずしもテニスプレーヤーやスポーツ選手に多いというわけではあ りません。一般に外来を受診する人のほとんどは40歳前後の主婦や重労働者であり、テニスが誘因とされるものは、全体の10〜20%である とされます。

◆症状◆
 ほとんどの人は自覚症状を、ひじのみでなく腕の筋肉や手首から肩にも痛みを感じ訴えます。一方押すと痛いところはひじの外側のやや手首に近いところを中心とします。患者の訴える痛みが広範囲なのに対して、実際に押して痛いところは1カ所に限られているのも特徴のひとつです 。
 症状が軽いときは、仕事やスポーツをするときに痛みを認めるだけですが、症状が強くなると、重いものを持ったり、タオルをしぼったりすることが困難になり、ついにはコップやラケットすら持てなかったり、ドアノブが回せなかったりとスポーツ活動以外にも日常生活に大きな支障をきたすことになります。

◆原因◆
 ひじの外側にある上腕骨外側上顆に起始を有する手首や指を伸ばす筋肉の過度の使用により起こり、これら筋肉の付着部の炎症とされます。
 日常では家事や仕事での手の使いすぎがその一因であるとされます。テニスでは、フォームとの関係が深く、バックハンドストロークで、ボールのインパクトの瞬間にラケットに加わる衝撃が手指から前腕の筋肉を介してひじ外側部の筋肉の起始部に集中することで障害を起こします。たび重なる衝撃によって筋肉や腱のわずかな損傷が起こり、それに伴う炎症のため、同様のストロークのたびに痛みを起こすことになります。この筋肉は指を伸ばしたり(特に中指)、手首をそらす動作を行う筋肉であるため、これらの動作をさえぎるように抵抗を加えることでひじの外側に痛みが出るようなら診断できます。

◆治療◆
 もっとも大切なことは3〜6週間の局所安静です。十分にストレッチを行い湿布などで消炎鎮痛処置を行います。症状が長引いたり増悪する場合は、医療機関を受診し物理療法、薬物療法、運動療法、装具療法を行うことをすすめます。ときによくならないものに対して手術が行われますがまれです。


【野球ひじ】

◎解説◎
 近年、スポーツ人口の増加に伴い、競技者の低年齢化や競技レベルの向上が認められます。その一方では、骨や軟骨の成長が未熟な小児に過度なトレーニングが加わり障害を起こすこともまれではありません。ことに国民的スポーツである野球におけるひじの骨や軟骨の成長障害や腱・筋肉の炎症や障害を野球ひじと呼称しています。このような病態は野球以外に体操選手の両ひじ、テニスプレーヤー、剣道家などにもみられ同様の障害を起こしています。
 子供の骨は成長とともに軟骨から骨と変化していきますが、ひじ関節の骨成長は12〜14歳で完成に近づきます。したがって、野球ひじの好発年齢は13歳頃が最も多く、12歳、11歳がそれに続きます。この時期ひじ関節に無理を強いて障害を残さないよう注意しなけれ ばなりません。

◆症状◆
 最も多い症状は、運動をしたときの痛み、すなわち投球時あるいは投球後のひじの痛みです。これらの痛みがいつどこに起こっているのかを確認することはとても大切なことです。というのは、野球ひじの痛みは、投球動作により大きく3つにわけられ、それによりある程度は、障害部位が推測できるからです。
 まず、ボールを持って投げるまでの加速相での内側の痛みは、内側の靭帯やひじ関節の内側の軟骨の障害、また、外側の痛みであればひじ関節の外側の軟骨障害、そしてボールリリース直後での後内側の痛みは肘頭骨の軟骨障害、最後にフォロースルー相での、ひじの後ろの痛みは後方の筋肉や腱の障害が多いとされています。

◆診断◆
 確定診断のためには、正確なエックス線撮影やストレス撮影が必要ですが、エックス線に映らない軟骨の障害を伴うことが少なくないため、関節造影や断層撮影やMRIを行うことがあります。

◆治療◆
 治療はその病態によりちがいますが、基本的には発育期のスポーツ障害であるので、症状を生じるスポーツ活動の休止と局所の安静を原則としてすすめています。症状が軽くなればストレッチや筋肉トレーニングを始め、入浴時の温熱効果と併用してひじの屈伸運動を行います。
 安静の期間について、小児では骨や軟骨が弱いので少し負担がかかっても障害を起こしやすいという反面、安静による回復力は早く、3〜4週間休むと症状は消退します。一方、患児はスポーツを休むとチーム内でのポジションが下がるため、無理をしてスポーツを続ける傾向がありますが、この時期の肩やひじの障害は中高生や成人になっても残り、将来スポーツ活動以外に日常生活にも影響することがあるので、完全によくなるまで無理をしないよう指導しています。
 症状が軽減しない場合は、必ず医療機関を受診しましょう。症状が強く可動域制限を認めたり、エックス線検査での異常があるものには、ひじ、前腕中間位で副子固定を6週間程度行うことがあります。
 このような保存的治療で症状がよくならず、スポーツ活動に支障をきたすものが手術的治療の適応となります。手術法は損傷部位や程度により靭帯であれば縫合術、縫縮術、再建術(Jobe法)が、軟骨や神経であれば遊離体の抽出術、病巣の掻爬術、神経の圧迫除去術などが行われます。